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いつも心の中に

出会う物語   「いつも心の中に」 小手鞠るい 金の星社

 

 

今年は梅雨のあとすぐ”残暑”が始まって、長くきびしいですね。

遠くに行けない日が続くこの頃、こんな心の旅はいかがでしょうか。

 

 

 

小さな本です。一章10ページくらいで12章、全部で160ページ足らず。

 

引越しを控える小学6年生の女の子のお母さんが

今の娘と同い年の頃に起きたことを、はじめて語ります。

 

言葉はわるいですが、よくある家族の予定調和的な話だろうと思っていたら

気持ちよく、ぜんぶ裏切られるのじゃないかと思うので

できれば、あらすじも読まずに、読んでいただきたいです。

 

お母さんに起きたことや感情には、共感しやすかったし

ほかの登場人物の行動にも、すぐ引き込まれました。

 

でも、それからは意外な展開の連続。

 

いろんな動物が、思わぬ形で、出てきます。

草花と果物もたくさん出ます。

かなしみを知る優しい人たちも

だまってそばにいてくれる人も

時をこえて、力づけてくれる人も。

 

こんな出会いが、こんな世界があったらいいと思わずにいられない場所でした。

そして実際に世界にそういう仕事があることを、私たちは見聞きしているから、

そこにも心強さや人の心のあったかさを感じました。

 

人と出会い、人の弱さやかなしみを知ったお母さんが

その後どうやって生きてきたのかは、描かれていません。

物語に描かれていないことも想像できるような

余韻を残す結末が、とてもさわやかです。

 

あなたの大切なものも「いつも心の中に」あるということを

思い出させてくれる。そんな一冊じゃないかと思います。

 

それではあと少し、元気によい夏をおすごし下さい。

 

(木綿子)